万川集海を読む · 06

『万川集海』の忍器目録——手裏剣より先に並ぶもの

『万川集海』の終盤には、忍器を収めた五巻があります。巻題に並ぶのは、登器、水器、開器、火器。投げる武器をまとめた巻は置かれていません。

今回の一節の新規現代語訳

巻十八、忍器。登るための道具。
巻十九、忍器。水で使う道具。
巻二十、忍器三。戸などを開ける道具。
巻二十一、忍器四。火を扱う道具。

『万川集海』総目録、巻十八から巻二十一までの連続する四つの見出し。天時・天文の巻に続いて忍器篇へ入る箇所です。巻二十二では、火器の項目がさらに続きます。

原文

巻第十八 忍器 登器
巻第十九 忍器 水器のこと
巻第二十 忍器三 開器
巻第二十一 忍器四 火器

『万川集海』総目録、忍器篇の巻十八から二十一までに連続する四行。伊賀流忍者博物館の目録掲載文により、字間を整えました。

語句の注

  • 忍器
    忍びの働きに使う器具です。武器だけを指す語ではありません。移動、侵入、点火、照明に使う品も入ります。
  • 登器
    高い所へ登るための道具です。目録には、形の異なる梯子や鉤などが並びます。
  • 水器
    水辺や水上で使う道具です。橋、筏、水蜘蛛、水掻などが収められています。
  • 開器
    戸、錠、留め具などに用いる道具です。鍵に似た器具、鑿、錐、鋸などが挙げられます。
  • 火器
    ここでは銃だけを指しません。火口、火箱、松明、火縄、薬方などを広く含みます。

忍具は用途ごとに棚分けされている

忍者の道具と聞くと、手裏剣や鎖鎌を思い浮かべる人が多いでしょう。刃があり、投げられ、戦う姿を描きやすい品です。映像にも向いています。

ところが『万川集海』の忍器篇は、武器の形から始まりません。まず「登る」が来ます。次は水。その次は戸などを開ける道具です。最後に火を扱う品が続きます。

いずれも用途の名です。高い場所を越える。水を渡る。閉じた所へ入る。火を起こし、保ち、使う。編者は、直面する障害ごとに道具を分けました。

目録は索引にすぎない。そう思われがちです。けれども、何を一つのまとまりとしたかは目録から読めます。巻を立てた以上、その分け方は偶然ではありません。伝えるべき知識として整理されています。

ただし、実際の携行品一覧ではありません。忍び一人が毎回すべてを背負った、とも書かれていません。まず分かるのは、本の中でどう並べたかです。

巻十八には梯子が何種類も続く

登器の目録を開くと、結梯、飛梯、雲梯、巻梯、畳梯、鉤梯、高梯が続きます。梯子だけで七種類です。名前も形も一つではありません。

壁の高さは一定ではありません。持ち運べる長さにも限りがあります。掛ける場所がある壁もあれば、ない壁もあります。だから一種類で済ませず、いくつもの案が並んだのでしょう。

その後には、苦無、打鉤、探鉄、長蓑、蜘梯、飛行、龍登、忍杖が置かれます。鉤や棒もあります。探るための器具もあります。珍しい名ばかりです。

ここで大切なのは、登器という置き場所です。たとえば苦無は、現代の作品では投げる刃物として描かれることがあります。しかし目録では登る道具の列に入っています。目録だけで細かな使い方は決められません。それでも、投擲武器の棚に置かれていないことは確かです。

同じ品に複数の使い道があっても不思議ではありません。こじる。掘る。掛ける。切る。投げる。どれが本文に書かれているかは、個別の図説で確かめる必要があります。映像で見慣れた使い方を先に入れてはいけません。

水器では、橋と筏が先に来る

巻十九は水器です。浮橋、沈橋、蒲筏、甕筏、葛篭筏が先に並びます。橋が二つ。筏が三つ。その後に水蜘蛛、水掻、鵜の図説が続きます。

水蜘蛛だけを取り出すと、忍者が水の上を歩く道具に見えます。実際、現代ではその姿がよく知られています。けれども目録の中では、水を越えるための一案です。橋や筏と同じ巻にあります。

同じ巻へ収められたからといって、性能が保証されたわけではありません。図が残っていても、どれほど使われたかは分かりません。試作だけだった品もあり得ます。口伝を受けなければ使い方が分からない品もあります。

書物から確かめられるのは、編者が水器として記録したことです。図説の分量も読めます。寸法も書かれています。そこから実用性や使用回数へ進むなら、別の証拠が要ります。

水を越える方法が一つではない点にも注意が必要です。浮かべる。沈める。筏を組む。手足を助ける。場所によって答えが変わります。万能の秘密道具は出てきません。

閉じた場所には、開器を使う

巻二十の開器には、問外、刃曲、延鑰、入子鑰、鑷、鑿、錐、鋸、鎌、釘抜などが並びます。戸や錠、板、釘に応じて道具を替えるためです。

忍び入りは、壁を飛び越えれば終わりではありません。門が閉まっています。戸には留め具があります。板を外す必要もあります。音を立てれば、人が起きます。

そのため、開器の列には聴鉄もあります。聞くための鉄です。開ける前に中の様子をうかがうのでしょう。力ずくで壊すだけではない。閉じた物を前にして、どこをどう扱うかを選びます。

ここにも刀剣の分類はありません。障害は人だけではないからです。戸、錠、鎖子、板、釘。忍び入りを止める物に、一つずつ向き合っています。

名前を並べただけで、使い方を再現することはできません。字の読みが難しい品もあります。図が粗い場合もあります。詳しい手順まで分からないなら、分からないままにしておく。それも原典を読む際の約束です。

「火器」を鉄砲だけで読まない

火器と聞けば、現在は銃砲を連想しがちです。『万川集海』の目録では、もっと広い範囲を扱います。火口、筒火、火箱、万年火、不滅明松、火縄、火炬、薬方。火を起こす品、保つ品、運ぶ品、薬を調える法が混じっています。

項目は巻二十一だけでは終わりません。巻二十二にも続きます。忍器五です。火に関する知識が二巻にまたがって収められました。

だからといって、火器が最も重要だったとは断定できません。項目数の多さには、材料や配合の違いも関わります。同じ目的でも処方が分かれれば、目録は長くなります。

一方で、火が一種類の武器ではなかったことは分かります。照らす。合図する。消えないように保つ。水辺で使う。燃やす。眠気や視界に関わる薬方まで入ります。用途は広いのです。

忍器を「戦うための武器」とだけ考えると、こうした品をうまく説明できません。準備する人も要ります。材料を量る人も要ります。その場で作る品もあります。携帯した完成品だけが忍器ではありません。

手裏剣について言えるのは、目録の範囲まで

伊賀流忍者博物館が掲載する総目録では、忍器篇に「手裏剣」という独立項目は見当たりません。投げる武器をまとめた巻もありません。確認できるのは、そこまでです。

『万川集海』のどこにも手裏剣の記載がない。そう言い切ることはできません。二十二巻の本文をすべて調べ、異なる写本も比べ、別の字で書かれた例まで探さなければならないからです。目録にないことと、全本文にないことは同じではありません。

さらに、書物に項目がないことと、歴史上使われなかったことも別です。忍びの働きに就いた人が何を携えたかは、任務や時代、土地によって違ったでしょう。一冊の目録だけで決められません。

反対に、現代の忍者像で有名だからといって、『万川集海』の中心にあったとも言えません。目録で大きく分けられたのは、登器、水器、開器、火器です。投擲武器ではありません。

否定しすぎない。足しすぎない。目録を読むときは、二つの間に留まります。記された項目を数え、記されていない見出しを確認する。それ以上は別の調査に渡します。

一人分の装備表にしない

忍器篇には多くの道具があります。だからといって、すべてを一人分の装備にまとめることはできません。長い梯子と筏と開器一式を、毎回同じ人が持つのは現実的ではありません。

壁を越える日もあります。水路を渡る日もあります。戸を開ける必要がある日もあります。火を使えない場所もあります。場面が違います。

目録に並ぶのは、選択肢です。何を持つかは障害によって決まります。登器の中でも、壁の形や高さが変われば選ぶ品は変わるでしょう。水器でも同じです。

実際の使用には、作り方と扱い方も要ります。『万川集海』の凡例では、忍器を自分で作って善し悪しを試し、試していない品は使わないよう説きます。一器を多様に使えるよう、単純に作ることも勧めています。

道具の名を知るだけでは足りません。作る。試す。場所に合わせて選ぶ。目録の背後には、そうした手順があります。珍品の陳列とは違います。

目録で分かること、分からないこと

分かるのは、書物の分類です。忍器篇は五巻あります。登器、水器、開器、火器の順です。火器は二巻に続きます。各巻には、用途に応じた項目名が置かれています。

分からないのは、使用回数です。どの道具が最もよく使われたか。成功したのか。誰が作ったのか。目録にはありません。

地域差も分かりません。伊賀や甲賀のすべての家で同じ品を伝えた、とも断定できません。ここで読んだのは、伊賀流忍者博物館所蔵写本の目録です。

図説がある品でも、現物が残っているとは限りません。現存品があっても、図と同じ物かどうかは別に確かめる必要があります。復元品も同じです。

目録は万能ではありません。しかし、弱い資料でもありません。本の骨組みをそのまま残しています。何を大きく分けたか。どの名を項目にしたか。順番はどうか。そこは確かめられます。

忍者の印ではなく、越える障害を読む

手裏剣は、一目で忍者だと伝わる印です。小さく描けます。動きもあります。物語では便利です。

『万川集海』の忍器目録は、印を集めていません。壁、水、戸、火。任務を止める条件から始めます。そのため、梯子や橋や鑿が多くなります。

派手ではありません。けれども具体的です。どこを登るのか。どう渡るのか。何を開けるのか。火をどう保つのか。道具の役目は、障害が決まって初めて定まります。

目録に手裏剣の独立項目はない。ここまでは言えます。忍びが手裏剣を使わなかった。そこまでは言えません。二つを分けると、原典の記録と後世の像を混ぜずに済みます。

登器、水器、開器、火器。四つの巻題は短い。それでも、忍具を見る順番を教えてくれます。まず障害を見る。次に道具を見る。『万川集海』の忍器篇は、そこから始まります。

出典

『万川集海』総目録、忍器篇、巻十八から巻二十二。原文四行は、伊賀流忍者博物館が掲載する総目録と、伊賀市デジタルミュージアムの伊賀流忍者博物館所蔵写本の書誌で確認しました。伊賀流忍者博物館の目録「つづき2」には登器と水器の項目が、「つづき3」には開器と火器の項目が収められています。同館の古文書目録では、巻十八を忍器一「登器」、巻二十を忍器三「開器」と記録しています。