隠密・情報・抑制

忍術

秘密を書き残す。忍術書は、その矛盾を抱えたまま書かれています。伝えたいが、誰にでも伝わっては困る。その迷いは、巻の立て方や、伝授を制限する断り書きに、そのまま残っています。

現代の忍者像は、しばしば超人的な身体能力から始まります。跳ぶ、投げる、化ける、逃げる。

ところが現存する忍術書をめくると、そうした技法は書物の後半に置かれていることが多いのです。先に来るのは、使い手の心構え、主人や大将が知っておくべきこと、情報の扱い、地形と人の見分け方。そのあとに、出入りの方法、天候、火、道具、合図、伝授の制限が続きます。技法は確かに書かれています。ただし、組み立てられた知識の一部として、そこに置かれています。

このカテゴリでは、書物が並べたその順番のまま読んでいきます。近世の伝書に何かが書いてあるからといって、それを流派が途切れずに続いていた証拠とは考えません。道具の図が一枚あることと、その道具が後の物語の通りに使われたこととは、別の話です。忍術書からまず言えるのは、編者がそれを書き留め、分類し、誰かに伝えようとした、というところまでです。そこから先へ進むには、別の証拠が要ります。

なぜ二十二巻もあるのか

『万川集海』は、ほかの短い秘伝書と比べて格段に大きな書物です。国立公文書館は、その写本を二十二巻および軍用秘伝一巻と記述し、著者として藤林保武の名を挙げています。内容の区分は、正心、大将の心得、陽忍と陰忍、時と天候、そして器具といった事項へと進みます。

この順序には意味があります。奇術の寄せ集めではありません。巻の並びを見ると、最初に「正心」があり、次に大将の心得が来て、具体的な技法はその後に置かれます。誰が何のために使うのかを先に決めてから、術を教える構成です。「正心第一」の冒頭は、根は心を正しく整えることであり、陰謀や佯計はその末(枝)だと述べます。最初の記事では、この二文だけを扱い、隠密の技を集めた書物がなぜ心の話から始まるのかを考えました。

ただし「正心」を、心がけを説いただけの飾りと受け取ると読み違えます。この語は、そのあとに続く行為を判定するための基準として置かれています。命じられた務めとしての忍びの働きと、私欲のための盗みとを、この基準で分けようとしています。もっとも、実際の忍びがその通りに生きたかどうかまでは、規範を説いた文章からは分かりません。分かるのは、編者が何を教えようとしたかまでです。

俗説を否定するためではなく、確かめるために

黒装束、手裏剣、水蜘蛛。よく知られた像の多くは、原典に対応する記述があるもの、部分的にあるもの、ほとんどないものが混在しています。このサイトは、俗説を否定することを目的にしません。原典に何がどう書かれているかを示し、通説との距離を測ることを目的にします。原典に記載がない場合は、「記載がない」と明記します。

原典シリーズ

忍術の原典

原典ごとに、選ばれた一節の読解を積み上げます。

百科的集成

万川集海

心の持ち方、大将の心得、陽忍と陰忍、時と天候、そして道具。つねに一節ずつ精読します。

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  1. 焼く・知らせる・救う——『万川集海』が挙げる火器の三つの徳万川集海 · 08
  2. 『万川集海』とは——二十二巻の構成と伝本原典ガイド
  3. 二重底の木櫃で門を通る——『万川集海』隠簑の術万川集海 · 07
  4. 『万川集海』の忍器目録——手裏剣より先に並ぶもの万川集海 · 06
  5. 『万川集海』の陽忍と陰忍——忍びは姿を隠すだけではない万川集海 · 05
  6. 『万川集海』の忍び歩き——深泥・浅泥で変わる歩法 万川集海 · 04
  7. 『万川集海』の水蜘蛛——水上歩行の道具なのか 万川集海 · 03
  8. 『万川集海』の「くノ一」とは——女忍者の通説を原文から読む 万川集海 · 02
  9. 技法の前に——『万川集海』はなぜ「正心」から始まるのか 万川集海 · 01

秘伝書

正忍記

『正忍記』自身の構成と語彙のなかで、選ばれた一節を読みます。他書の記述を混ぜて補いません。

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  1. 帰る目印を先に決める——『正忍記』陣中忍時之習正忍記 · 04
  2. 人に理を尽くさせる——『正忍記』地巻の聞き手正忍記 · 03
  3. 『正忍記』とは——名取正澄と全三巻の構成原典ガイド
  4. 『正忍記』の忍び六具——携えた六つの道具を読む正忍記 · 02
  5. 『正忍記』の七方出——黒装束ではない七つの変装 正忍記 · 01

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