『忍秘伝』を読む · 01

『忍秘伝』の結梯——縛って作る梯子を読む

木でも竹でもよい。しかし、結び始めは釘を打って堅く留める。写本の三行と図から、ありふれた部材が梯子へ変わる手順を確かめます。

この記事のための新規現代語訳

結梯について。
柱木を用いても、竹を用いてもよい。
結び始めの箇所には釘を打ち、結び留めて堅くすること。

『忍秘伝』巻二「結梯之事」冒頭。書籍版とは別に、この記事のために訳した。

原文

結梯之事
柱木ニテモ竹ニテモ用ヘシ
結初メノ所ハ釘ヲ打テ結留テ堅クスヘシ

伊賀市ADEAC公開写本16コマで確認し、字体と改行を整えた。引用はこの三行のみ。

語句の注

  • 結梯(ゆいばしご)
    部材を結び合わせて作る梯子。伊賀市の資料目録は「ユイバシゴ」と読んでいます。
  • 柱木
    梯子の両側になる長い部材。本文は竹も選べるとしていて、材質を一つに絞っていません。
  • 結初メノ所
    結び始める箇所。完成した梯子全体ではなく、組み立ての出発点を指します。
  • 結留テ堅クス
    結んで動かないように留めること。「堅く」は、結び目に求める状態です。

「結」の一字に、作り方が入っている

「結梯」という見出しは、梯子の種類に名前を付けただけではありません。できあがった一本を運ぶのではなく、長い部材と横木を結んで梯子にする。そのやり方が名前に入っています。短い本文も、その順にたどります。材料、結び始め、固定。

三行のどこにも、登る高さも、使う場所も、何段にするかも書かれていません。代わりに目立つのが、最初の結び目をゆるませるな、という指示です。道具の効き目を誇るのではありません。部材が一つの構造物に変わる、その継ぎ目を確実にせよと言っています。秘伝書の一節ですが、話の中心は不思議な力ではなく、作る手順です。

木でも竹でもよいという幅

「柱木ニテモ竹ニテモ用ヘシ」と、材料が二つ並んでいます。何でできているかより、側材として使える形と強さがあるかどうか。そちらを見ていたのでしょう。ただし、どんな木でも竹でも安全だと請け合った文ではありません。太さ、乾き具合、割れ、節の位置。選び方の条件は、この抜粋にありません。

選べるということは、その場にある物で間に合わせてよい、ということです。とはいえ、替えてよい部分と、必ず守る部分は違います。材料は木でも竹でもよい。しかし結び始めには釘を打って堅く留める。短い文のなかで、動かしてよい条件と動かしてはいけない条件が、はっきり分かれています。

なぜ最初の結び目に釘を打つのか

本文は、すべての結び目に釘を打てとは書いていません。「結初メノ所」だけです。最初の横木を結んでいるあいだに部材がずれると、そのあとの間隔も向きも狂います。だから出発点を釘で押さえ、結び留め、堅くする。文面から言えるのはここまでです。釘の寸法も、打ち方も、縄の種類も、結び方の名前も分かりません。

この線引きは大事です。古い道具書の絵と短い文を、現代の安全基準を満たした製作図と同じに扱うことはできません。写本の一頁は、技術を思い出すための手がかりです。荷重試験の記録でも、施工の仕様書でもありません。実際に作れば人が登れる、と言い切るには、書かれていないことが多すぎます。

図が担う説明

公開写本の同じ頁に、梯子の図があります。長い側材が二本。そのあいだに横木が並び、端が結んであります。文字のほうは材料と出発点の固定を述べ、図のほうは部材の並び方を見せています。文章だけでは、横木がいくつも繰り返す様子がつかめません。図だけでは、最初に釘を打てという指示が伝わりません。両方を並べて読むと、何を言葉にして、何を絵に任せたのかが分かります。

ただし、図の比率をそのまま実寸と受け取ることはできません。横木の数や間隔が決まりだった、という注記はありません。この絵は、部材がどう並ぶかを伝えるための絵です。図があるから完全に復元できる、という話ではありません。図がどの情報を補っているのか。そこを分けて読みます。

真梯と草梯という目録の説明

伊賀市の「結梯」資料目録によれば、結梯には「真梯」と「草梯」の二種類があります。真梯はふだんから備えておく梯子。草梯は、怪しまれないよう竹の棒だけを持って行き、忍び込む現場で組み立てる梯子だといいます。材料を選べるという本文とよく合いますが、今回引用した三行に、この二つの名前は出てきません。

ですから、原文と目録の解説を一続きの引用のように扱ってはいけません。原文にあるのは、木か竹か、そして最初の固定。目録が補っているのは、常備品と現場製作品の区別です。出どころを分けて考えれば、完成品を持ち歩かず部材のまま運ぶ意味も、落ち着いて考えられます。

秘密の道具を普通の材料から読む

忍術道具と聞けば、見たこともない形の器具を思い浮かべます。ところが結梯の材料は、木、竹、釘、それに縄です。特別なところがあるとすれば、材料ではありません。ありふれた部材を、目的に合わせて組み替える知識のほうです。

「その場で作れる」と「雑に作ってよい」は違います。本文は、材料を替えてよいと認めながら、出発点だけは堅く留めろと命じます。融通をきかせつつ、外せないところは外さない。この一節が実務的なのは、そこです。

江戸期の伝本として位置づける

伊賀市の目録によれば、所蔵する『忍秘伝』は江戸期の一冊本で、中身は四巻に分かれています。服部半蔵保長からの伝承や、加藤作左衛門が書き写したという記載も載っています。これは、伝本の側がそう主張しているという手がかりです。それぞれの段階で誰が書いたかまでは、証明されていません。

国立国会図書館の解説も、一六五五年にまとめられたという由来を紹介しながら、真偽は不明としています。ですから「服部半蔵本人がこの梯子を考え出した」とは書けません。確かなのは、伊賀流忍者博物館が所蔵する江戸期の伝本の巻二に、「結梯之事」の図と指示が残っている。それだけです。

携行と組み立てを分けて考える

ふだん備えておく真梯と、現場で作る草梯。この区別が面白いのは、同じ形の道具でも、いつ完成させるかで性格が変わるからです。できあがった梯子なら、すぐ使えます。その代わり、かさばります。運んでいる目的も見抜かれます。部材のままなら、組み立てる手間が増えます。ただし持ち運ぶあいだは、梯子だと言い切れません。

ただし、この利点は伊賀市の目録解説から考えたことです。引用した三行が、潜入の成功例を記録しているわけではありません。本文の材料選択と出発点の固定。目録の二分類。写本の図。それぞれの出どころを分けて考えれば、持ち運びやすさを買いかぶらずに、いつ完成させるのかという点に目を向けられます。

木か竹か、結び始めを釘で留める——ここから先は分からない

結梯がどれくらい使われたのか。どこかの城への潜入で成功したのか。忍びがみな同じ形を習ったのか。この一節は何も答えません。木や竹の梯子も、縄で結ぶことも、忍びだけの技術ではありません。図があるという一点から、専用の装備だったと決めることもできません。

言える範囲は狭いのですが、はっきりしています。『忍秘伝』巻二は結梯を一項目として立てました。側材には木でも竹でも使えるとしました。結び始めは釘と縄で堅く留めよ、と教えました。伝説を広げるより、この三点を正確に残す。それが原典を読む意味です。

出典

『忍秘伝』巻二「結梯之事」冒頭。原文と図は伊賀市ADEAC公開写本16コマで確認した。伝本の年代・構成・伝承記載は『忍秘伝』資料目録、真梯・草梯の説明と読みは「結梯」資料目録による。成立伝承への留保は国立国会図書館「秘巻 忍術書を読んでみよう!」も参照した。